まったりと甘く漂ってきた香りに、
一瞬で幼い頃の情景が浮かぶ。
「遊園地の匂いだ!」って思う。
毎日のように遊んでいた小さな公園。
なぜか皆が「ゆうえんち」って呼んでいた。
藤棚があって、その下に木のベンチ。
隣はジャングルジムとブランコ。
その藤は、
年季が入って随分とワイルドな面持ちだった。きれいな花がぶらさがるほんのわずかな時間の他は、
童話に登場して
パックリと人を飲み込んでしまう植物に見えた。
ジャングルジムもブランコも、
剥げかかったペンキの色は思い出せないのに、やっぱり匂いだけは鮮明に浮かびあがってくる。
ちょっと遊んだだけでいつまでも鉄臭い、
匂いの記憶だけは、
いつもくっきりと鮮やかに瞬間移動する。
好きな俳優の名前が口から出てくるまで
3分かかる自分に驚くだけに、
この差には感心してしまう。
頭の奥深くにしまってある嗅覚の記憶のかけらが、
どこからどうやって出てきて、そしてまた元に戻るのか、
この目で見てみたい。