幼い頃、父と二人っきりで観覧車の中でおにぎりを食べた光景を
くっきり鮮明に覚えている。
二人でどこかなんて、たぶんあとにも先にもないと思う。
実家のアルバムには、その日父が撮った写真が1枚あった。
縞々模様のとっくりセーターを着て、マジンガーZの遊具にまたがり
難しい顔をした3歳の私がおさまっている。
観覧車の写真はない。
弟が生まれてくる間際の冬の日、父と二人で遊園地に行ったのだそう。
お腹の大きい母がお弁当をもたせて送り出してくれたのだと思う。
連れて行ってもらったことも他の乗り物も全く覚えていないけれど、
並んで座っておにぎりを食べた事実だけが、
大切に胸の中におさまっている。
一周で降りなければならない短い間に、
父は何故おにぎりを出したのか?ということは疑問のままに、
観覧車を見つけるたびに思い出して、
もしかしたら、頭のなかで絵面も描き変わってるかもしれないけれど。
こどもにまるで関心のなさそうな父は、私にとって理解するのがむつかしい存在だったけれど、
「ちょっぴりしあわせな思い出もあるんだ」という小さな事実に、
大きく救われて心が凪ぐ自分がいる。
(あれ?もしや、1970年代の観覧車は、
そのまま何周でも乗せてもらえるシステムだったのかなあ・・・・・・?)